この問答の
あったのは確か初日から五日目の晩、——カルメンが舞台へ登った晩である。
僕はまだ日本にいた時、やはり三人の檀那と共に、一人の芸者を共有したことが
あった。
それは舅の肺結核に感染するのを怖れる為でもあり、又一つには息の匂を不快に思う為でも
あった。
彼等は芸術の見かたは勿論、生活上の問題などにも意見の違うことはたびたび
あった。
水際の蘆の間には、大方蟹の棲家であろう、いくつも円い穴が
あって、そこへ波が当る度に、たぶりと云うかすかな音が聞えた。
するとある夜の事——それは予定の講演日数が将に終ろうとしている頃で
あった。
——しかし鍵鼻は
あっても、内供のような鼻は一つも見当らない。
いわばこの桶の中の空のように、静かながら慕わしい、安らかな寂滅の意識で
あった。