そんな時だ、手の置き場所が分らなくなつて、手がそれ自身意志を持つ動物であるかのやうに、肩や腰や背や空や、
あてどもなく走り出し騒ぎはぢめるのは。
それで、多く和歌には、ぽかんとして思に耽つて、何処と
あてどもなく見入つて居る心持に多く用ゐて居る。
成経は成経で、妖怪に憑かれたような、きょとんとした目付きで、晴れた大空を、
あてどもなく見ながら、溜息ばかりついている。
肉の眼で恐ろしい夢でも見るように、産婦はかっと瞼を開いて、
あてどもなく一所を睨みながら、苦しげというより、恐ろしげに顔をゆがめた。