日あたりの納戸に据えた枕蚊帳の蒼き中に、昼の蛍の光なく、すやすやと寐入っているが、可愛らしさは四辺に
こぼれた、畳も、縁も、手遊、玩弄物。
十吉の庭も急に霜どけがして、竹垣の隅には白い梅が
こぼれそうに咲き出した。
市商人は大かた境内に店を出しているのであるが、それでも往来にまで
こぼれ出して、そこにも此処にも縁起物を売っている。
踊り子の親兄弟や見物の人たちで広い二階は押し合うように埋められて、余った人間は縁側まで
こぼれ出していたが、楽屋の混雑は更におびただしいものであった。
わずかに束ねたる頭髪は、ふさふさと枕に乱れて、台の上に
こぼれたり。
人の足音がし、急いで懷に入れた紙の袋から懷の中に鹽が
こぼれたらしい。
甘く芳はしき香も悪しからず、花の黄金色なせるも地に
こぼれて後も見ておもむき無きならず。