何れにしても、この密航に関して私には
はかない思い出が一つある。
然しそれは全く実体のないあだなウヌボレにすぎなくて、それがなければ首でもくくるより仕方がないからの
はかない生きる手がかりにすぎない。
と同時に、この私が、
はかないながらも、淡いながらも、ここに消極的の愉快を感じ得るに至ったのも、私自身の一幸福である。
此を
はかない詩人気どりの感傷と卑下する気には、今以てなれない。
人間の生活とは畢竟水に溺れて一片の藁にすがらうとする空しい
はかない努力ではないのか。
いつだったか彼はその夜店街で、素晴らしいタネを拾った経験があったので、今夜ももしやという
はかない望みをつないでいたのだった。
寂しい墓原の松のかげに、末は「いんへるの」に堕ちるのも知らず、
はかない極楽を夢見ている。
長柄の太刀脇差を三五縄でぐるぐる巻にし、茶筌にゆった髪は、乱れたままである上に袴も
はかないと云う有様である。
反対の気持になった経験というのは、窓のなかにいる人間を見ていてその人達がなにか
はかない運命を持ってこの浮世に生きている。