彼はその前へ腰をおろし、
一本のバットへ火を移した。
そのあとには唯凍て切った道に彼等のどちらかが捨てて行った「ゴルデン・バット」の吸い殻が
一本、かすかに青い一すじの煙を細ぼそと立てているばかりだった。
が、手をやったポケットの中には生憎
一本も残っていない。
そこには四五本の棕櫚の中に、枝を垂らした糸桜が
一本、夢のように花を煙らせていた。
ただ、咄嗟の際にも私の神経を刺戟したのは、彼の左の手の指が
一本欠けている事だった。
幕の間から、お揃いの手拭を、吉原かぶりにしたり、米屋かぶりにしたりした人たちが「
一本、二本」と拳をうっているのが見える。
一人の女人や一つの想念や
一本の石竹や一きれのパンをいやが上にも得ようとしている。
自分は敷島を
一本完全に吸つてしまつて、殻も窓からすてた後だつたから、更に恐れる所なく、ノオトを開いた。
父は雛を売りさへすれば、紫繻子の帯を
一本買つてやると申して居りましたから。
或温泉にゐる母から息子へ人伝てに届けたもの、——桜の実、笹餅、土瓶へ入れた河鹿が十六匹、それから土瓶の蔓に結びつけた走り書きの手紙が
一本。