しかして、黄昏帰家せざるをもって家僕を迎わせんとせしに、あいにく不在なるにより、妻、一
婢をもって出迎えせしは、すでに夜七時。
と直に松葉屋へ這入ると、
婢「入らつしやい、お芽出たうございます、相変らず御贔屓を願ひます、モシ、ちよいと御家内さん、福富町の旦那が。
わが
婢なにおもふらむ廚辺の桜花の樹のもとにあちらむき停てり
渠は清川お通とて、親も兄弟もあらぬ独身なるが、家を同じくする者とては、わずかに一人の老媼あるのみ、これその
婢なり。
何が故に私宅教授の口がありても錢取道を考へず、下宿屋の
婢に、何を爲て居ると問はれて考へる事を爲て居ると驚かしたるや。
三十前後の顔はそれよりも更けたるが、鋭き眼の中に言われぬ愛敬のあるを、客擦れたる
婢の一人は見つけ出して口々に友の弄りものとなりぬ。