一
帆がその住居へ志すには、上野へ乗って、須田町あたりで乗換えなければならなかったに、つい本町の角をあれなり曲って、浅草橋へ出ても、まだうかうか。
帆村は側らの長椅子に身を凭せて、しばらく席が明くのを待っていなければならなかった。
帆村は追跡をあきらめて、元の横丁へ、とってかえした。
今日は、その三重の
帆を海鳥の翼のごとく広げ、しかもそれでも足りないで、両舷の火輪を回して、やや波立っている大洋を、巨鯨のごとく走っているのだった。
大抵は伝馬に
帆木綿の天井を張って、そのまわりに紅白のだんだらの幕をさげている。
帆は霧を破る日の光を受けて、丁度中空を行くやうに、たつた一つ閃いてゐた。
小坪の浦に帰る漁船の、風落ちて陸近ければにや、
帆を下ろし漕ぎゆくもあり。
上げ潮につれて灰色の
帆を半ば張った伝馬船が一艘、二艘とまれに川を上って来るが、どの船もひっそりと静まって、舵を執る人の有無さえもわからない。