主人は庭を渡る
微風に袂を吹かせながら、おのれの労働が為り出した快い結果を極めて満足しながら味わっている。
空間にあへなき支点を求めて覚束なくも
微風に揺られてゐる掻きつき剰つた新蔓は、潮の飛沫のやうだ。
寛いだ白雲は悠々と歩を運ばしてゐる、そこにはなほ光と匂と
微風の饗宴がある。
夜半、月の光が一川の蘆と柳とに溢れた時、川の水と
微風とは静に囁き交しながら、橋の下の尾生の死骸を、やさしく海の方へ運んで行った。
大正九年の初秋、玉蜀黍の葉末に、秋らしい
微風の音を聞く頃……。
雪の上につきさしたスキーに吊したアザラシの皮が
微風にゆれて、凍った毛が油紙をサラサラと撫でていた。
散り初めた山桜が、時々渡る
微風に連れて、駕籠の上へも人の肩へも降って来た。
日没と共に生じた
微風は、その麦の葉を渡りながら、静に土の匂を運んで来た。
と、こころよい五月の
微風が、戯れかかるように流れこんで来た。
そそるような
微風が、温かに彼女の力を吹出して宇宙の中に満ち渡った。