平俗な名利の念を離れて、暫く人事の匆忙を
忘れる時、自分は時として目ざめたるまゝの夢を見る事がある。
なぜと云ふに、あの男は物を
忘れると云ふことがないからである。
私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりに抓っていた光景を
忘れることができない。
すべての時代を通じて、人はこの迷信によってわずかに二つの道というディレンマを
忘れることができた。
僕が今
忘れることが出来ないというのは、その民子と僕との関係である。
その癖まづ照子を
忘れるものは、何時も信子自身であつた。
が、鹿鳴館の中へはひると、間もなく彼女はその不安を
忘れるやうな事件に遭遇した。
ときどきの消息に、帰国ののちは山中に閑居するとか、朝鮮で農業をやろうとか、そういうところをみれば、君に妻子を
忘れるほどのある熱心があるとはみえない。
私はあおくなってそこの小川で手を洗うやら一人で大騒ぎをやったが、このときの救われない恐怖と不安はいまだに
忘れることができない。