「三面の仙境には、江戸にいる頃から憧
憬れておりました。
私は、海の慈愛と同時に此の雲と云ふ、曖昧模糊たるものに憧
憬れて、三年の間、瓢々乎として歩いて居たといふわけであります。
自ら落着くべき故郷も無く、息ふべき宿も無く、徒らに我慾の姿に憧
憬れて、あえぎ疲れて居る。
西原氏はまた醉つたあくる日の朝の西原氏なので、昨夜のそわそわした氣持ちも拔けてぽかんとした中に嚴肅なものに對する一種の憧
憬れを持つてゐるやうな氣分であつた。
憧
憬れつゝも仰ぐものに、其の君の通ふらむ、高樓を渡す廻廊は、燃立つ躑躅の空に架りて、宛然虹の醉へるが如し。