右の手に黒革の
折鞄、俗にいわゆる往診鞄を携えているのは、言わずと知れたお医者さんである。
そのとき出入口の重い扉がぎいと内側に開いて、肥えた赭ら顔の紳士が、
折鞄を片手にぶら下げて入って来た。
この時、勝手の方から、洋服姿で
折鞄を抱へた男が、のつそり部屋の中に現はれ、茶の間を横ぎつて座敷の方へ行く。
古ぼけた大きな
折鞄を小脇にかかえて、やや俯き加減に、物静かな足どりをはこんでゆく紳士がある。
冬の外套の腋の下に
折鞄を抱えた重吉は玄関前の踏み石を歩きながら、こういう彼の神経を怪まない訣には行かなかった。