それ等の家々に面した道も
泥濘の絶えたことは一度もなかつた。
如月十九日の日がまともにさして、土には
泥濘を踏んだ足跡も留めず、さりながら風は颯々と冷く吹いて、遥に高い処で払をかける。
泥濘は、荊棘、蔦葛とともに、次第に深くなり、絶えず踊るような足取りで蟻を避けながら、腰までももぐる野象の足跡に落ちこむ。
それ等の家々に面した道も
泥濘の絶えたことは一度もなかった。
雪曇りの空が、いつの間にか、霙まじりの雨をふらせて、狭い往来を文字通り、脛を没する
泥濘に満そうとしている、ある寒い日の午後の事であった。
嘉永四年は春寒く、正月十四日から十七日まで四日つづきの大雪が降ったので、江戸じゅうは雪どけの
泥濘になってしまった。
舷側の水かきは、
泥濘に踏みこんで、二進も三進も行かなくなった五光のようだった。
路は恁う乾いたのに、其の爪皮の泥でも知れる、雨あがりの朝早く
泥濘の中を出て來たらしい。
梅を探るには、寒風と戰はざるべからず、雪と戰はざるべからず、
泥濘と戰はざるべからず。