浴槽は高く作られて、踏み板を越えて這入るのが習で、その前には柘榴口というものが立っているから、浴客は柘榴口をくぐり、更に踏み板を越えて
浴槽に入るのである。
八時ごろ四十五度ぐらいにしておくと、石の
浴槽は冬でも却々冷却せず、十二時ごろは四十一二度、二時三時でも、三十八度ぐらいである。
私は一つ目小僧だとか、あかなめ(深夜人のねしずまった時に
浴槽の垢をなめに出る怪)だとかいうような一種の妖怪がふと、どこかに在り得るような感じがするものである。
浴槽は汲み換えられて新しい湯の中は爪の先まで蒼み透った。
そしてその直後、彼はいま
浴槽のなかに寝てゐるやうに、フィールドの草のうへに夕焼雲にむかつて仰向けになり、写真の閃光を浴びてゐたのだ。
浴槽の一端へ後腦を乘て一端へ爪先を掛て、ふわりと身を浮べて眼を閉る。
「脚に力が無いので、身體が浮くやうで氣持がわるい」と、父は子供のやうに
浴槽の縁に掴まりながら、頼りなげな表情をした。
何と申しましょうか、それは、ちょうど湯加減のよい
浴槽のなかにでも浸っているような、こころよい、しみじみとした幸福感でありました。