この男が水練が達者なぐらゐは驚くに当らぬが、この男は真冬の
満潮の海を泳いで上つてきた。
東は三枚洲の澪標遥に霞むかたより、
満潮の潮に乗りてさし上る月の、西は芝高輪白金の森影淡きあたりに落つるを見ては、誰かは大なるかな水の東京やと叫び呼ばざらん。
それがほぼ八分の
満潮であることは「スカールの漕ぎ手」室子には一眼で判る。
すると、膝も、腹も、胸も、恐らくは頃刻を出ない内に、この酷薄な
満潮の水に隠されてしまうのに相違あるまい。
夜半の
満潮に打上げられた海藻の、重く湿ツた死骸が処々に散らばツて、さも力無げに逶※つて居る許り。