此はとりわけ、避けねばならぬことで、景樹のわれながらは一首に律文情調の
漲ることを碍げてゐる。
しかも、その作中に
漲る一脈清新の気は、抑も何処から来るのであらう。
そして、その「正直さ」が、運命的とさへみえるところに、この日記全巻に
漲る「恐ろしさ」があり、人間ルナアルの不思議な魅力が潜んでゐるやうに思はれる。
土地への愛着を喪つて、只管金儲を夢見る農民が、夏虫の火中に飛び込む如く、黄金火の
漲る都会を眼がけて走り寄るのは当然である。
自から恣にする歡樂悲愁のおもひは一字に溢れ一句に
漲る、かくて單純な言葉の秘密、簡淨な格調の生命は殘る隈なくこゝに發現したのである。