長野市へ出て、やつと買つて来た信濃名所集と云ふ、恐らく新刊当時の
まま残つて居たらしい本と、反点だけ付いた論語集註とを時々開いて読んだ。
冬の外套の腋の下に折鞄を抱えた重吉は玄関前の踏み石を歩きながら、こういう彼の神経を怪
まない訣には行かなかった。
五年前かの女が、主人逸作と洋行するとき、一緒に連れて行って、帰国の時その
まま残して来たものだ。
同時に
また川から立昇る藻の※や水の※も、冷たく肌に
まつわり出した。
店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦三笠の模型の
まはりにキユラソオの壜だのココアの罐だの干し葡萄の箱だのが並べてある。
同時に又彼等の一人は丁度部屋の
まん中に立ち、踊ると云ふよりも跳ね
まはつてゐた。
僕は膠臭いココアを飲みながら、人げのないカツフエの中を見
まはした。
『しめおん』は、己が仕業もわき
まへぬものでござる」と、わななく声で祈つたと申す事ぢや。
次に彼の製本した本も、筆記した手帳も、実験室での日記も、発見の時に用いた機械も、それから少し変ってはいるが、実験室も今日その
まま残っている。