○「へえーいえもうやきもちを焼かれる雁首でもありませんが、人情でございますから、まるつきり
見ず知らずで御厄介になります。
大工だの師匠だの市井人というものは、
見ず知らずの人に政見を語るほど、ウヌボレも強くはないし、ヒマ人でもないものだ。
三十三間堂、金閣寺、両本願寺の屋根も
見ず知らず、五条、三条も分らずに、およそ六日ばかりの間というもの、鴨川の花の廓に、酒の名も、菊、桜。
路傍ですれ違ふ人々は、
見ず知らずの人として、互に冷かな眼を向け合ひ、電車のなかで人が転んでも、手をかして起さうとするものがないのです。