ひそかに死骸を抜け出すと、ほのかに明るんだ空の向うへ、まるで水の※や藻の※が
音もなく川から立ち昇るように、うらうらと高く昇ってしまった。
方々の工場で鳴らす汽笛の
音が、鼠色の水蒸気をふるわせたら、それが皆霧雨になって、降って来はしないかとも思われる。
遠くで二三度、角の
音がしたほかは、馬の嘶く声さえ聞えない。
そうして、その滑な水面を、陽気な太鼓の
音、笛の
音、三味線の
音が虱のようにむず痒く刺している。
己はずっと昔から山奥の洞穴で、神代の夢ばかり見ていたが、お前が木を伐りに来始めてからは、その笛の
音に誘われて、毎日面白い思をしていた。
向う岸に近いところは浅く、河床はすべすべの一枚板のやうな感じの岩で、従つて水は
音もなく速く流れてゐる。
さうして又至る所に、相手を待つてゐる婦人たちのレエスや花や象牙の扇が、爽かな香水の匂の中に、
音のない波の如く動いてゐた。