今西は
冷かに目礼すると、一通の封書を残したまま、また前のように音もなく、戸の向うの部屋へ帰って行った。
ただ、周囲には多くの硝子戸棚が、曇天の
冷い光の中に、古色を帯びた銅版画や浮世絵を寂然と懸け並べていた。
その音が煮えくり返るような周囲の騒ぎの中に、恐しくかんと冴え渡って、磨いた鉄の
冷かな臭を、一度に鋭く鼻の孔の中へ送りこんだ。
——立騷いだ後の和やかに沈んだ官能(耳)が一層澄んでそのさわやかな雨滴の音が頭の底まで泌みるやうな
冷快な感じがして來た。
が、
冷澄な空気の底に冴え冴えとした一塊の彩りは、何故かいつもじっと凝視めずにはいられなかった。
熱も少しあるらしく、
冷いやりとした風が襟もとや首すぢにあたるごとにぞくぞくする。
最後に旧暦の十一月下旬だから、海上を吹いて来る風が、まるで身を切るやうに
冷い。
静かに眠つてゐる雪のやうに
冷かではあつても柔かである。
九月十九日——「朝、空曇り風死す、
冷霧寒露、虫声しげし、天地の心なお目さめぬがごとし」