白い鳥の羽で製つた
団扇を、時々大事さうに使つてゐる容子では、多分、儒者か何かにちがひない。
「ほんとうにお暑うござんすね」と、小女のお君は
団扇の手を働かせながら相槌を打った。
「こりゃ童部たち、一座へ風が通うように、その大
団扇で煽いでくれい。
「ねえさんが番屋へあげられた」と、半七も
団扇の手をやすめた。
団扇を持って降りてくると、お粂は待ち兼ねたように摺り寄って云った。
ちっとばかりの土産物を持って半七老人の家をたずねると、老人は湯から今帰ったところだと云って、縁側の蒲莚のうえに大あぐらで
団扇をばさばさ遣っていた。
「親分、くたびれましたかえ」と、多吉は宿から借りた紅摺りの
団扇で、膝のあたりの蚊を追いながら云った。
そして私の怒りは隣室でバタ/\
団扇を動かす家の者の気勢にも絶間なく煽られてゐた。
蝉の声もいつかきこえず、部屋のなかに迷い込んで来た虫を、夏の虫かと思って、
団扇ではたくと、ちりちりとあわれな鳴声のまま、息絶える。
夫婦は燈つけんともせず薄暗き中に
団扇もて蚊やりつつ語れり、教師を見て、珍らしやと坐を譲りつ。