眉を顰めながら、その癖
恍惚した、迫らない顔色で、今度は口ずさむと言うよりもわざと試みにククと舌の尖で音を入れる。
「ですがね、欄干へ立って、淀川堤を御覧なさると、貴方、
恍惚とおなんなさいましたぜ。
そうしてあらゆる優れた芸術品から受ける様に、この黄いろい沼地の草木からも
恍惚たる悲壮の感激を受けた。
ただ、妙に
恍惚たる心もちの底へ、沈むともなく沈んで行くのである。
しかもその声を聞く毎に、神魂たちまち
恍惚として、恋慕の情自ら止め難し。
太平洋の波に浮べる、この船にも似たる我日本の國人は、今や徒らに、富士山の明麗なる風光にのみ
恍惚たるべき時にはあらざるべし。
然れども
恍惚たる少女の顔には言ふ可からざる幸福を感じ候。
袋棚と障子との片隅に手炉を囲みて、蜜柑を剥きつつ語ふ男の一個は、彼の横顔を
恍惚と遙に見入りたりしが、遂に思堪へざらんやうに呻き出せり。
「われわれをしていたずらに
恍惚たらしめる静的美は、もはやわれわれとは没交渉である。
銀鞍の少年、玉駕の佳姫、ともに
恍惚として陽の闌なる時、陽炎の帳靜なる裡に、木蓮の花一つ一つ皆乳房の如き戀を含む。