そこにぼんやりと立った状を、女に見られまいと思った見栄か、それとも、その女を待合わしてでもいたように四辺の人に見らるるのを
憚ったか。
壁一重の隣家を
憚って、蹴上の旅館へ寺田を連れて行ったりした。
午後、我がせし狼藉の行為のため、
憚る筋の人に捕えられてさまざまに説諭を加えられたり。
彼女は、藻抜けの殻の寝台の上に身を投げかけると、あたり
憚らずオンオン泣き出した。
青年は
憚るように声を殺して呼びながら、強く女を揺ぶったが、ぐったりと身動きもしなかった。
阿闍梨は、白地の錦の縁をとった円座の上に座をしめながら、式部の眼のさめるのを
憚るように、中音で静かに法華経を誦しはじめた。
若し大きい声をしたら、この天鵝絨のやうな青い夜の空の下で、石の如き沈黙を守つて、そつと傍観してゐる何物かの邪魔をすることにならうかと
憚るのである。
病身な妻や弟たちは勿論、隠居さへ彼には
憚かつてゐた。
蓋し当時某藩に起りたる御家騒動に基き、之を潤飾敷衍せしものにて、其人名等の世に知られざるは、
憚る所あって故らに仮設せるに因るならん、読者以て如何とす。
渠等の無頼なる幾度も此擧動を繰返すに
憚る者ならねど、衆は其乞ふが隨意に若干の物品を投じて、其惡戲を演ぜざらむことを謝するを以て、蛇食の藝は暫時休憩を呟きぬ。