とつぷり夜が落ちてから漸く家へ戻つてきて、重い貝の包みを無言でズシリと三和土の上へ
投げだしたのを覚えてゐる。
私の見たのはそれだけだったが、死人の靴も時計も、こんなふうにして、この二人の若者は淡々とつまみあげて、
投げだしたり、ポケットへ入れたりしたろうと思う。
あの焼け野の、爆撃の夜があけて、うららかな初夏の陽ざしの下で、七人の爆屍体を処理しながら、屍体の帽子をヒョイとつまんで
投げだす若者の無心な健康そのものの風景。
すると、彼は何思ったか、手にしていたアルミの弁当箱をがたんと音をさせて地上に
投げだすが早いか、そのまま身を躍らせてどぼーんと堀のなかに飛びこんだ。
とっぷり夜が落ちてから漸く家に戻ってきて、重い貝の包みを無言でズシリと三和土の上に
投げだしたのを覚えている。
『彼女を接吻することが出来さへしたら、おれあ身代ありつたけ
投げだしたつて構やしねえぞ。