一度此の不思議な世界の本当の姿を知りはじめたら、
此の世の姿は全くちがつたものになつて来るでせう。
そして若し彼女等が
此の世にゐないのだつたら…………どちらにしても、靴の音を聞く苦しみから、自分は全く解れることになるのだ。
その癖
此の世は私たちに強い強い愛著を持たせるのですね。
それは
此の世の人とも思われないような、低い、悲しい声であった。
君の
此の世の中で、どんなに下らないことが重大さうな顔をしてゐるかを知らないか。
茲に於て自分は感じた、地獄極楽は決して宗教家の方便ではない、実際我等の
此の世界に現存して居るものである、と。
主観的に之を見る時は、
此の世界は一種の自動機関なり、自ら死し、自ら生き、而して別に自ら其の永久の運命を支配しつゝあるものなり。
安月給取りの妻君、裏長屋のおかみさんが、
此の世にありもしない様な、通俗小説の伯爵夫人の生活に胸ををどらし、随喜して読んでゐるのを見ると、悲惨な気がする。
茲に於て自分は感じた、地獄極樂は決して宗教家の方便ではない、實際我等の
此の世界に現存して居るものである、と。
私は「
此の世に希望なくば」云々と書き得たことが如何にこの夫婦の平常の愛の結合の純熱であったかを思いやられて感動を禁じ得ない。