私は十六七の頃にはもう濃く礬水をひいた
薄美濃紙を宛てがって絵巻物の断片を謄き写しすることも出来たし、残存の兜の錣を、比較を間違えず写生することも出来た。
遠い上野の森は酔ったように
薄紅く霞んで、龍泉寺から金杉の村々には、小さな凧が風のない空に二つ三つかかっていた。
そこにはもう僕のほかにも
薄縁りを張った腰かけの上に何人も腰をおろしていた。
殊に咲き始めた薔薇の花は、木々を幽かにする夕明りの中に、
薄甘い匂を漂わせていた。
それは何万匹とも数の知れない、
薄羽かげろうの屍体だったのだ。
何時かあの範実のやつと、侍従の噂をしてゐたら、憾むらくは髪が
薄すぎると、聞いた風な事を云つたつけ、あんな事は一目見た時にもうちやんと気がついてゐたのだ。
しかし
薄眼になつた猫はやはり背中を円くした儘、一切の秘密を知つてゐるやうに、冷然と坐つてゐるばかりだつた。
薄明りの中に仄めいた、小さい黄色の麦藁帽、——しかしその記憶さへも、年毎に色彩は
薄れるらしい。