彼は草鞋を履き、裃のやうな古めかしい背広服に顔色の悪い丸顔を載せて、
零れた人々を一人づつ甜めるやうな格巧をしながら、よろよろと彼を探し廻つてゐた。
中止に氣落ちした面々がまた心を取直して何の希望もない經濟的なまた勞力的なあと片付けを默々とやりはじめたときの氣持は今思ひ出しても涙が
零れる。
別に意識のあるわけでなし、心を鎮めて伏してゐると、果ての知れない遠い処に澎湃と溢れ、静かに
零れるものがあつた。
あたし何だか、ぽち/\冷たい小粒のものが顔に当るので雨かしらと思ひましたらね、花が
零れるのですわ。
帯締めだってきちんと結ばれているし、落したとすれば、道を急いだために、蟇口自身がひとりでに浮き上って、そして知らぬ間に
零れたに相違なかった。
熱さへ降れば直ぐに出社するからとあれだけ哀願して置いたものを、さう思ふと他人の心の情なさに思はず不覺の涙が
零れるのであつた。