彼はズボンのポケットの
底の六十何銭かも忘れたまま、プラットフォオムの先へ歩いて行った。
さもなければ私はこの頃のように、何の理由もない憂鬱の
底へ、沈んでしまう筈はございますまい。
この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地の
底の黄泉の国にさえ及んでいた。
「十字架に懸り死し給い、石の御棺に納められ給い、」大地の
底に埋められたぜすすが、三日の後よみ返った事を信じている。
——私はいつかうとうとと浅い眠に沈みながら、それでもまだ腹の
底には水のような春寒が漂っているのを意識した。
すると、今し方通った川蒸汽の横波が、斜に川面をすべって来て、大きく伝馬の
底を揺り上げた。
が、同時にまたその顔には、貴族階級には珍らしい、心の
底にある苦労の反映が、もの思わしげな陰影を落していた。
ただ、妙に恍惚たる心もちの
底へ、沈むともなく沈んで行くのである。
彼はズボンのポケツトの
底へちやんとそのマツチを落した後、得々とこの店を後ろにした。
殆その瞳の
底には、何時でも咲き匂つた桜の枝が、浮んでゐるのかと思ふ位、晴れ晴れした微笑が漂つてゐる。