女中が唐紙をあけてはいってくるのが、跫音も、唐紙をあける音もきこえないから、
忽然として、女中が現れている。
それよりも更と不思議なは、
忽然として万籟死して鯨波もしなければ、銃声も聞えず、音という音は皆消失せて、唯何やら前面が蒼いと思たのは、大方空であったのだろう。
失せた……と思う暇もなしに、
忽然として消えたのである。
さうした「
忽然」を考へる事の、不都合な幾多の例蹤を、私は見てゐる。
支那にも大きなのがいて西陽雑俎に唐の大和三年ろ州の某官庭前に
忽然として大蚯蚓出ず、その長さ二、三丈とあるが、こんなのに出られたらミミズ酒どころではない。
この町に
忽然として姿の見すぼらしい少年が現われた。
五六枚の衣を売り、一行李の書を典し、我を愛する人二三にのみ別をつげて
忽然出発す。