恐らく黙つてゐるのが気づまりで、沈黙が恰も心中にうごめく醜悪な
怪獣であるかのやうに不快であるのかも知れない。
夕方のうす暗いときに、なんだか得体のわからない
怪獣がわたしの家の台所をうかがっていたといって、年のわかい女中が悲鳴をあげて奥へ逃げ込んで来たこともあった。
そこから、暗夜に聞く
怪獣のせゝら笑ひに似た物凄さを感じさせ、やゝもすれば、メロドラマチックな感動をさへ強ひられることがある。
怪獣の秩序紊乱かな……どうも獣じゃ仕方がない——それとももしやその獣の……オヤ誰か来たようだ。
公使館のあたりを行くその
怪獣は八田義延という巡査なり。
ただ妄想という
怪獣の餌食となりたくないためばかりに、私はここへ逃げ出して来て、少々身体には毒な夜露に打たれるのである。