ただ野田山の墳墓を掃いて、
母上と呼びながら土に縋りて泣き伏すをば、此上無き娯楽として、お通は日課の如く参詣せり。
母上は七十歳の皺も晴れやかに、妻は三十五歳の丸髷、緑滴らんばかりである。
この小さき抒情小曲集をそのかみのあえかなりしわが
母上と、愛弟 Tinka John に贈る。
母上は我を伴ひてかの扉の前を過ぐるごとに、必ずわれを掻き抱きてかの十字架に接吻せしめ給ひき。
電燈の消えた薄暗い中で、白いものに包まれたお前たちの
母上は、夢心地に呻き苦しんだ。
知らぬも理ならずや、これを知る者、この世にわれとわが
母上と二郎が叔母とのみ。