夏が来て、あのうらうらと
浮く綿のやうな雲を見ると、山岳へ浸らずにはゐられない放浪癖を、凡太は所有してゐた。
絶えず続いて、音色は替っても、囃子は留まらず、行交う船脚は水に流れ、蜘蛛手に、角ぐむ蘆の根を潜って、消えるかとすれば、ふわふわと
浮く。
青銀色の、鱗の底から光る薄墨ぼかしの紫は、瓔珞の面に
浮く艶やかに受ける印象と同じだ。
人を押付けがましいにおいを立て、脂がぎろぎろ光って
浮く精力なんというものほど下品なものはない。
と私は、暗がりをもっけの幸いにして、自分でも歯の
浮くような饒舌をふるった。
白樺が闇に
浮く路を、黙って歩くと、いい得ぬ思いが胸にわく。
立ちならんだ町家の間を、流れるともなく流れる川の水さへ、今日はぼんやりと光沢を消して、その水に
浮く葱の屑も、気のせゐか青い色が冷たくない。
遠近の山の影、森の色、軒に沈み、棟に
浮きて、稚子の船小溝を飛ぶ時、海豚は群れて沖を渡る、凄きは鰻掻く灯ぞかし。
いざ、金銀の扇、立つて舞ふよと見れば、圓髷の婦、なよやかにすらりと
浮きて、年下の島田の鬢のほつれを、透彫の櫛に、掻撫でつ。