それは舅の肺結核に感染するのを怖れる為でもあり、又一つには息の
匂を不快に思う為でもあった。
殊に咲き始めた薔薇の花は、木々を幽かにする夕明りの中に、薄甘い
匂を漂わせていた。
池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い
匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い
匂も忘れたのか、いつまでも凝固まったように動かなかった。
松脂の
匂と日の光と、——それが何時でも夫の留守は、二階建の新しい借家の中に、活き活きした沈黙を領してゐた。
さうして又至る所に、相手を待つてゐる婦人たちのレエスや花や象牙の扇が、爽かな香水の
匂の中に、音のない波の如く動いてゐた。
現にその晩も無尽燈は薬種の
匂の漂つた中に、薄暗い光を放つて居りました。
しかしこれさへ、座敷の中のうすら寒い沈黙に抑へられて、枕頭の香のかすかな
匂を、擾す程の声も立てない。
殆その瞳の底には、何時でも咲き
匂つた桜の枝が、浮んでゐるのかと思ふ位、晴れ晴れした微笑が漂つてゐる。