山の沈黙にゐて思ひ出す雑踏の慈愛と同様に、雑踏にゐてふと紛れ込む山脈の映像は、恰も目に見え、耳に冴え、皮膚に泌みる高い
香気を持つものであつた。
そして街毎の空気々々に別々の
香気を感じ、さういふ匂の静かな秘密をつきぬけながら歩いてゐた。
なるほどなるほど、味噌は巧く板に馴染んでいるから剥落もせず、よい工合に少し焦げて、人の※意を催させる
香気を発する。
夫人が急に顔を近付けると、彼女のふくよかな乳房と真赤な襦袢との狭い隙間から、ムッと咽ぶような官能的な
香気が、たち昇ってくるのだった。
私は、将来、日本の劇壇にも、ファルスらしいファルスが、最も近代的な姿で、芸術的な
香気と力強さとをもつて現はれることを期待してゐる。
そればかりではなく、現場には、この世にない
香気が漂い、梵天の伎楽が聴こえ、黄金の散華が一面に散り敷かれているのです。
そして、やわらかい
香気の好い空気を広い肺の底までも呼吸した。
五月経った時に、おかみさんは、杜松の樹の下へ行きましたが、杜松の甘い
香気を嚊ぐと、胸の底が躍り立つような気がして来て、嬉しさに我しらずそこへ膝を突きました。