イイナはボックスの一番前に坐り、孔雀の羽
根の扇を使いながら、悠々と舞台を眺め出した。
けれども本所の町々はたとい自然には乏しかったにもせよ、花をつけた屋
根の草や水たまりに映った春の雲に何かいじらしい美しさを示した。
昼見るといつも天主閣は、蓊鬱とした松の間に三層の白壁を畳みながら、その反り返った家
根の空へ無数の鴉をばら撒いている。
そうしてまた更に時としては、その山と海との間に散在する、苫屋の屋
根の上からさえ聞えた。
二階は天井の低い六畳で、西日のさす窓から外を見ても、瓦屋
根のほかは何も見えない。
勿論その外に石原通りや法恩寺橋通りにも低い瓦屋
根の商店は軒を並べてゐたのに違ひない。
そこには又赤い柿の実が、瓦屋
根の一角を下に見ながら、疎に透いた枝を綴つてゐる。
殊に傷しいのはその眼の色で、これはぼんやりした光を浮べながら、まるで屋
根の向うにある、際限ない寒空でも望むやうに、徒に遠い所を見やつてゐる。
なれど「れぷろぼす」は、性得心
根のやさしいものでおぢやれば、山ずまひの杣猟夫は元より、往来の旅人にも害を加へたと申す事はおりない。
そこにはまた赤い柿の実が、瓦屋
根の一角を下に見ながら、疎らに透いた枝を綴っている。