向う側の女もあやうく転げそうになったのを、となりにいる
兄貴に抱きとめられてまず無事という始末。
カゼをひかせちゃ、こまるから、コタツをいれようと云うと、ダメなんだ、弟の奴、子供の時から寝相がわるく、なんでも蹴とばすから、火事になる、と
兄貴が仰有る。
それも暮しの工夫なら無いよりはマシだが、二三年のうちに彼の自由思想はさッさと死んで、
兄貴のところへころがりこんだ。
それ程自分に
兄貴らしい心もちを起させる人間は、今の所天下に菊池寛の外は一人もいない。
大きくなつたらきつと
兄貴の苦労を察してくれるであらう。
「ちくしょうッ、ざまをみろ、もうのがさねえぞ!
兄貴、
兄貴、あかりだよ、あかりだよ!」
なるほど、
兄貴ゃ
兄貴だけのことがあらあ、大きにそれにちげえねえや、と、こんなにいってね、安心したようにころりとなると、ぐうぐう寝ちまったんですよ」
いい
兄貴というところを、特別にでけえ声でいってきなよ——」