空濠と云ふではない、が、天守に向つた大手の跡の、左右に連なる石垣こそまだ高いが、岸が浅く、段々に埋れて、土堤を掛けて道を
包むまで蘆が森をなして生茂る。
それから、昼弁当の結飯をこしらえ、火に翳して、うす焦げにして置いて、小舎の傍から※って来た、一柄五葉の矢車草の濶葉に一つずつ
包む。
水と空とを
包む神秘な光に心を躍らせる外、一向追憶めいた追憶にふけるわけでもなかつたのですから。
今でこそ懐かしいなどと云つてゐるが、その臭は、私の過去を通じて、最も暗く、最も冷たい放浪時代を
包む呪ふべき臭だつたのである。
そこから生れたものは、憂鬱な幻想と朗らかなエロチシズム、かのフランドルの森と海とを
包む香ばしい黄昏の唄である。
しかし、あなたの本性が更にあなたの仏蘭西人としての特質が、そしてあなたの生活の体験が、あなたの人生観を禁慾主義的な微笑で
包むやうになつた。
隅々から這ひ出して来たやうな闇が、斜に立つてゐる壁を
包む。
臺所の戸棚をあけて、鹽の壺から鹽を出して紙に
包むと云ふ事が、この時ばかりはとても難澁な爲業であつた。
墨染の衣にでも、花嫁の振袖にでも、イヴニングドレスにでも、信仰の心を
包むことは自由である。