やがて蒲原氏は机へもどつてぼんやり顔を
掩うてゐたが、静かに書きかけのものを手にとると、できる限りの細かさに丹念に千切つてしまつた。
折りから八月の末近く南国とはいいながら、車の窓に輾転する峠の山々にどこか秋の気が忍び寄って、山骨を
掩う木の緑の葉も、艶彩のさかりを過ぎていた。
翆巒峭壁を
掩う下に、銀鱗を追う趣は、南画の画材に髣髴としている。
長い間、剃刀を当てない髯がぼうぼうとしてその痩せこけた頬を
掩うている。
然るに五・一五事件以来ファッシズム殊に〔軍部〕内に於けるファッシズムは、
掩うべからざる公然の事実となった。
其の一部は好逑伝に藉るありと雖も、全体の女仙外史を化し来れるは
掩う可からず。
ただ新聞記者の業に在る者潜心校閲の暇なく、新聞紙を切り抜きたるままこれを植字に付したるは醜を
掩うあたわざるゆえんなり。
その端が襟に染め抜いた小頭という白文字の小の字を
掩うて、頭という字だけを見せていた。
手摺窓の障子を明けて頭を出すと、椎の枝が青空を遮って北を
掩うている。
私と別れることよりも、私が京都へ行くことに決心したその心根を察して、いぢらしくなつたのであらう、父はその大きな筋張つた、節くれ立つた手で顔を
掩うた。