自分の意志すら表現できない
坊ちやんらしい片思ひで、彼にとつてはその恋が彼の生活の全部であつた。
「やつぱり君が大島を着てゐると、山の手の
坊ちやんと云ふ格だね。
——雪の中を跣足で歩行く事は、都会の
坊ちゃんや嬢さんが吃驚なさるような、冷いものでないだけは取柄です。
そんな大切なお薬を雀の生命を取るために使うなぞと、まあ何という乱暴な
坊ちゃんでしょう。
それでもお嬢さんや
坊ちゃんは顔を見合せているばかりです。
けれども「
坊ちやんにはわからねえ」といひながら卑しい微笑してから——それから話し出すことが面白くて僕は小僧が好きだつた。
五六人取り交ぜたブルジョアの
坊ちゃんで、若いサラリーマンや大学生達だとの事、それから藤棚の方はと聞いた時、
東京人、
坊ちやん、詩人、本好き——それ等の点も僕と共通してゐる。
——雪の中を跣足で歩行く事は、都會の
坊ちやんや孃さんが吃驚なさるやうな、冷いものでないだけは取柄です。