殊に近頃は見越しの松に雪よけの縄がかかったり、玄関の前に敷いた枯れ松葉に藪柑子の
実が赤らんだり、一層風流に見えるのだった。
と思うともう赤みのさした、小さい
実を一つ啄み落した。
実を云えばその瞬間、私は驚愕——と云うよりもむしろ迷信的な恐怖に近い一種の感情に脅かされた。
実を云うとさっきこの陳列室へはいった時から、もう私はあの時代の人間がみんなまた生き返って、我々の眼にこそ見えないが、そこにもここにも歩いている。
そこには又赤い柿の
実が、瓦屋根の一角を下に見ながら、疎に透いた枝を綴つてゐる。
実を云ふと彼は、かうなるまでに、師匠と今生の別をつげると云ふ事は、さぞ悲しいものであらう位な、予測めいた考もなかつた訳ではない。
それが斜に枝を延いた檜のうらに上つたれば、とんとその樹は四十雀が
実のつたやうぢやとも申さうず。
範
実などと云ふ男は、篳篥こそちつとは吹けるだらうが、好色の話となつた日には、——まあ、あいつはあいつとして置け。
或温泉にゐる母から息子へ人伝てに届けたもの、——桜の
実、笹餅、土瓶へ入れた河鹿が十六匹、それから土瓶の蔓に結びつけた走り書きの手紙が一本。
そこにはまた赤い柿の
実が、瓦屋根の一角を下に見ながら、疎らに透いた枝を綴っている。