此時、何の理由もなしに、泉鏡花さんと、稲生武大夫とが一処になつて、どつと私の前におし
寄せる波のやうなものに乗つて出て来たものである。
「鉄の野郎め、貴様は鴿一羽を餌にして、おれたちを釣り
寄せるつもりか。
で、自然と同窓生もこの人を仲間はずれにはしながらも内※は尊敬するようになって、甚だしい茶目吉一、二人のほかは、無言の同情を
寄せるに吝ではなかった。
なんでも池のぬしが錦の帯に化けて、通りがかりの人間をひき
寄せるんだと云うんです」
お蝶は上品な美しい娘で、すこし寡言でおとなし過ぎるのを疵にして、若い客をひき
寄せるには十分の価をもっていた。
と、家外の吹雪の中に一人のヴァイオリン弾きの老爺の乞食が立ち、やがてそれは寒さのために縮んで主人の室の硝子扉に貼りつくように体を
寄せました。
そしてまた私達のセンチメンタリストは、廃墟に自然が培う可憐な野草に、涙含ましい思いを
寄せることがある。
鼠色のハンチングを眼深に冠った蒼白く長い顔の男が、薄茶の夏外套に包んだ身体を、彼女の右肩に擦り
寄せるようにして立っているだけだった。
なれど「ろおれんぞ」は唯、美しい顔を赤らめて、「娘は私に心を
寄せましたげでござれど、私は文を貰うたばかり、とんと口を利いた事もござらぬ」と申す。