実は
渡り者の下職人、左の手を懐に、右を頤にあてて傾きながら、ばりかんを使う紋床の手をその鋭い眼で睨むようにして見ているのであった。
なにか、陰惨な世界を見たくて、隅田川を
渡り、或る魔窟へ出掛けて行ったときなど、私は、その魔窟の二三丁てまえの小路で、もはや立ちすくんで了った。
その五つかっきりにご番所へ参りますると、さっそく訴状箱をひっかきまわして、ひと
渡りその日の訴状を調べます。
伝六はむっつり稲荷の門番なんだ、奥の院を拝むにはまずあっしに
渡りをつけなきゃというわけでね。
たちまち伝六が目かどをたてて鳴りだしたとき、高々と呼びたてた声がひびき
渡りました。
従つて気風が荒く、娼妓などもそれに相応した
渡り者が陣取つてゐて、往々にして雇人の方が主人よりも鼻息があらい、と。
僕は時々この橋を
渡り、浪の荒い「百本杭」や芦の茂つた中洲を眺めたりした。
僕の家というのは、松戸から二里ばかり下って、矢切の渡を東へ
渡り、小高い岡の上でやはり矢切村と云ってる所。
秀林院様はよろづ南蛮
渡りをお好み遊ばされ候間、おん悦び斜めならず、わたくしも面目を施し候。
日没と共に生じた微風は、その麦の葉を
渡りながら、静に土の匂を運んで来た。