土方が合図をすると、大戸の方からも、
厨房の方からも十四、五人の武士が駆け込んできて、五千両の金を何処ともなく運び去ったのである。
こゝで引合ひに出すのは、聊か「月遅れ」に違ひないが、横光利一氏帰朝第一回作品「
厨房日記」を再読し、これに対する諸家の批評をのぞいて、私は、感慨に耽つた。
そればかりでなく、腹を裂き、肉を切るに従って、芬々たる山椒の芳香が、
厨房からまたたく間に家中にひろがり、家全体が山椒の芳香につつまれてしまった。
真っ黒な猫が
厨房の方から来て、そッと主人の高い膝の上にはい上がって丸くなった。