自分は又、貪婪止むを知らざる渇望を以て、美なる物を求め奇異なる物を追ふ人々が、平和と形状とを
失つて、遂には無形と平俗とに堕する事を知つた。
その前に先祖から伝えられていた金も道具も
失くしていた。
市九郎は——自分特有の動機を、すっかり
失くしていた市九郎は、女の声をきくと、蘇ったように活気づいた。
衣類を
失つた人々が秋が更けても白地の單衣の重ね着の袖を雨にしめらせながら街を歩いてゐた。
——氣の違つたまゝで、たゞ/\あなたをお慕ひ申すのがいぢらしくて、
失禮とも何とも申し上げ兼ねますが……。
或声 しかしお前は永久にお前の読者を
失つてしまふぞ。
(僕は或女人を愛した時も彼女の文字の下手だつた為に急に愛を
失つたのを覚えてゐる。
予は今にして、予が数年来
失却したる我耶蘇基督に祈る。
其角に次いで羽根楊子をとり上げたのは、さつき木節が相図をした時から、既に心の落着きを
失つてゐたらしい去来である。
「文章倶楽部」が大正時代の作品中、諸家の記憶に残つたものを尋ねた時、僕も返事をしようと思つてゐるうちについその機会を
失つてしまつた。