品川を発車して間もなく、私は奇妙なにほひを嗅いだ、
嗅ぐといふよりは感じた。
しめつてかびた本もあつたけれど、それを乾したり風をとほしたりしてゐるうち、私はたえて久しい心のふるさとのにほひを
嗅ぐやうな感じを持つた。
私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で
嗅ぐようになった。
山の翠りもよいし、渓流のせせらぎ、朝の青嵐もよいが、感覚的に愉しいのは、この鮎の匂ひを川から
嗅ぐ時だ。
そして棚の上のさまざまの形ちの青や赤の酒瓶が眼についた、ぷんぷんとお美味い酒の匂ひを
嗅ぐと馬賊の大将はたまらなくなつて鼻をくんくん鳴らした。
「いいえ、あたしはあなたの着物のにおいを嗅いだら一緒に踊りたくなったのです、本当にあなたのにおいを
嗅ぐといいこころもちになります。
慣れない内は、その臭気を
嗅ぐと、誰でもすぐに、吐き気を催した。
真夏の日の午すぎ、やけた砂を踏みながら、水泳を習いに行く通りすがりに、
嗅ぐともなく嗅いだ河の水のにおいも、今では年とともに、親しく思い出されるような気がする。