波の静かな
夕暮で、海辺には破船だけが一つ二つ汀に打ち上げられていたが、海の中へ遠く乗り出している松林には潮風がからんで爽やかに揺れていた。
夕暮になると、件の松蘿や、蔓は大蜘蛛の巣に化けて、おだまきの糸の中に、自分たちを葬るに違いない。
その時には、雪の白色を拭き消された
夕暮になるのである。
が、それにもかかわらず、この土地へ始めて来たと云う写実派の亜太郎は、その東側に窓の開いた東室にとじこもって
夕暮時の富士山をスケッチしたと云うのだ。
それは夜の九時過ぎまでも明るい欧洲の夏の
夕暮に似ていると、かの女はあたりを珍しがりながら、見廻している。
で今、東海岸散歩道の浮カフェーからぶらりと出た折竹が、折からの椰子の葉ずれを聴かせるその
夕暮の風を浴びながら、雑踏のなかを丘通りのほうへ歩いてゆく。
十一月四日——「天高く気澄む、
夕暮に独り風吹く野に立てば、天外の富士近く、国境をめぐる連山地平線上に黒し。
晴れたる日の
夕暮など多く見ゆるなるが、雨気を含むものにや。
夕暮わけもなく坂の上に佇んでゐた私の顔が、坂を上つて来る制服のひとをみて、夕陽を浴びたやうにぱつと赧くなつたことも、今はなつかしい想ひ出である。